第一話


5 名前:愛のVIP戦士[] 投稿日:2007/02/13(火) 00:52:03.94 ID:J3+/Z9j+0
第一話

三月の終わり。
場所は都会の駅。
夕刻、会社帰りのサラリーマンやらがせわしなくホームを行き交っている。
そんな雑踏に紛れ、今まさに電車から降り立った一人の青年。

(´<_` )「ここが俺の……新天地!」

両手に大きなバッグを抱え、初めて見る多くの人々に圧倒されながらも、弟者は力一杯叫んだ。

(´<_` )(そうだ、俺はここで新生活を始めるんだ……)

十五歳の、バッグを落としてまで作り上げた握り拳は震えている。

(´<_` )(しかし……兄者と同居するのはどうにも気が進まん」

弟者は先日、都会の高校に図らずも合格してしまった。
田舎住まいの身である。
毎日電車で通うにはちと遠すぎる。

よって、母者の命令により、弟者はこれからしばらく、すでに会社員として都会に越している兄者と同居することとなったのだ。

(´<_` )「ま、いい。噂によるとさんえるでーけーらしいからな」

そんなわけで、弟者はバッグを拾い上げ、意気揚々と出口に向かったのである。

6 名前:愛のVIP戦士[] 投稿日:2007/02/13(火) 00:52:32.48 ID:J3+/Z9j+0
(´<_` )「……ありゃ」

持っている手書きのメモと見比べる。
兄者との待ち合わせ場所はこのあたりのはずだが……。

(´<_` )「いないな、兄者」

合格祝いとして貰った腕時計を見る。
すでに十分ぐらい、予定時刻を過ぎているというのに。
とりあえず待つことにした。
来ない。
まだ待つ。
やっぱり来ない。
まだまだ待つ。
それでも来ない。

そろそろ待ちくたびれた。

(´<_` )「……マンションまでの道筋は大体把握してるし、一人で行くか」

頭の上のカラスを払いのけて、弟者は北北東に進路をとった。

7 名前:愛のVIP戦士[] 投稿日:2007/02/13(火) 00:53:08.59 ID:J3+/Z9j+0
都会は違う。
まずアスファルトが敷かれている。
等間隔に街灯がある。
やっぱり下水も整備されているのだろうか。

(´<_` )「ぶーちのめしーてやれー。くたばれー。たわーけどもよー♪」

さながらピクニック気分である。

やがて兄者の住むというマンションが見えてきた。

(´<_` )「おお、でかいな」

およそ築十年の八階建て。
小綺麗なマンション、掲げられている名前は「メゾン・ド・G」

(´<_` )「さて、と」

320号室だったな、と思い返しつつ、弟者はマンション内に足を踏み入れた。

8 名前:愛のVIP戦士[] 投稿日:2007/02/13(火) 00:53:47.04 ID:J3+/Z9j+0
ピンポーン。
ピンポーン。
ピンポーン。
ピンポーン。
ピンポーン。
ピンポーン。
ピンポーン。

('A`)「うるせえな!」

(´<_` )「あ、すみません……間違えました」

どうやら302号室の間違いだったらしい。

それなりに大きなマンションだ。
さぞかし家賃も高いのだろう。
駅にも近いし。

自分の境遇と考え比べて、弟者は若干の不条理を覚えた。

やっと部屋の前まで到着する。

名札を見上げ、今度こそ正しいことを確認する。

(´<_` )「あにじゃー」

ピンポーン。

9 名前:愛のVIP戦士[] 投稿日:2007/02/13(火) 00:54:42.47 ID:J3+/Z9j+0
・・・

(´<_` )「うん、いないのか」

もしかしたら仕事かもしれない。
そういえば今日は平日である。
春休み真っ盛りの弟者はその認識が欠けていたことに気づく。

(´<_` )「俺、だめじゃーん」

(´<_` )「……で、どうするかな」

このままドアの前で頬杖をつきつつ待つか。

(´<_` )「いや、そんな二ヶ月前に別れた彼氏とよりを戻そうとする女みたいな行動は慎むべきだな」

ふと周囲を見渡すと、近しい場所に家電量販店らしきロゴが見えた。
田舎では見たことのない、まるでデパートのような店である。

(´<_` )「よし、時間をつぶすためにあそこへ行こう」

バッグやらをほっぽり出して、弟者は素早く階下へ向かった。

10 名前:愛のVIP戦士[] 投稿日:2007/02/13(火) 00:55:21.64 ID:J3+/Z9j+0
(´<_` )「だーいなまーいとでー♪」

某家電量販店。
五階建ての構成。
一階はテレビ、二階はパソコン……というように、各階ごとに違う商品が売られている。
田舎育ちの弟者にとってはあまりにも新鮮だ。

(´<_` )「テレビうっすいなー。兄者はこういうの持ってるのか?」

まずは一階を踏破。
続いて二階……と飽くなき探求心を持った弟者は全ての商品を熱心に眺める。

そのうち、三階の冷蔵庫売り場に到達した。

(´<_` )「冷蔵庫白いなー。家の冷蔵庫はくすんで真っ黒になってるからな」

パカリ、と扉を開く。

(´<_` )「おお!? 卵が入ってるぞ!」

年甲斐もない歓喜の声がフロア中に響き渡る。
しかし、手に取ってみるとあまりにも軽い。

11 名前:愛のVIP戦士[] 投稿日:2007/02/13(火) 00:55:54.04 ID:J3+/Z9j+0
(´<_` )「なんだよフェイクかよ……」

落胆。
しかしすぐに次の扉を開ける作業に戻る。

(´<_` )「お、ペットボトルか……空だけど。なんだよー、飲んだの誰だよー」

(´<_` )「缶ビール……いや、未成年はさわっちゃいけないな」

そのうち、三菱のMF-14Jの前に到達した。
所謂ホームフリーザーである。
130cmほどの、こぢんまりしたシロモノだ。

(´<_` )「もう、何が来ても驚かない」

そんな決心を抱きつつ弟者は扉をオープン。

(´<_` )「……」

「だぁ?」

そこに、赤ん坊が入っていた。

12 名前:愛のVIP戦士[] 投稿日:2007/02/13(火) 00:56:38.81 ID:J3+/Z9j+0

(´<_` )「こんにっちはーあっかちゃん」

不自然な格好をしている。
およそ背丈に合わないスーツに包まれた赤ん坊は、おそらく生後一年ぐらいだろうか。

「だぁ、だあぁ」

(´<_` )「うーん、これは微妙」

ちょっと驚いてしまったので反省。
しかしながら、これはこのまま放っておいて正解なのだろうか。
赤ちゃんを冷蔵庫に入れるのは都会の風習なのか。

(´<_` )「やけに目を輝かせてるな……めっちゃ見られてるし」

這って弟者に迫ろうとする。
しかし衣服が絡まってなかなかおもうようにいかない。

「ばぁぶぅ!」

(´<_` )(マジでばぶーとか言うんだな)

13 名前:愛のVIP戦士[] 投稿日:2007/02/13(火) 00:57:16.21 ID:J3+/Z9j+0
(´<_` )「おー……よしよし」

とりあえず頭をなでていると……。
店員らしき男が声をかけてきた。

( ゚∀゚)「へい、そこのボーイ」

(´<_` )「あい?」

( ゚∀゚)「ダメじゃないか、赤ちゃんを冷蔵庫に放置したりしちゃ」

(´<_` )「え、いや、ちが……」

( ゚∀゚)「あーもう、これだから近頃の若者はだめなんだよな。
     命を命と思ってねえんだ。
     てめえのタレが腹痛めて産んだ子だろう?
     つーか捨てるなら最初から産むなボケ。
     つまりおっぱい」

(´<_` )「え、いや、その、俺の子じゃないっていうか」

( ゚∀゚)「うるせー! 厄介事持ちこんでんじゃねーよ! 
     さっさとその赤ん坊連れて出て行け!」

14 名前:愛のVIP戦士[] 投稿日:2007/02/13(火) 00:58:09.67 ID:J3+/Z9j+0
(´<_` )「困った、これは困ったぞ俺」

(´<_` )(養えるか、養えるのか? 俺に?)

(´<_` )「それにしてもこいつ……誰かに似ているな」

( ゚∀゚)「なーにブツ×2抜かしてるんだYO!」

(´<_` )「あ、え、いや、その……」

オムツ一丁の彼を抱き上げる。

よく見ると、オムツに油性マジックで何か書かれていた。

(´<_` )「ん?」

「だ?」

『あにじゃ』

(´<_` )「……そういえば、似ている」

なんと、赤ん坊=兄者のようだ。

15 名前:愛のVIP戦士[] 投稿日:2007/02/13(火) 00:58:53.53 ID:J3+/Z9j+0
それなら背広にも説明が付く。
とりあえず片手に兄者、片手に背広という状態で、弟者は店を飛び出した。

( ´_ゝ`)「ばぁぶぅ、だぁだぁ」

(´<_` )「どうしたー兄者。病気か? 鳥インフルエンザでこうなっちゃったのか?」

( ´_ゝ`)「ばぁ!」

必死に手を伸ばして弟者の顔に触れようとする。
そんな兄者を弟者は愛おしく思った。
兄弟の壁を越えた何かが生まれかけた。

(´<_` )「いや、いかん。感傷に浸っている場合じゃない。
       病院に連れて行かないと……この場合は……内科か?」

そんな感じで、弟者は病院を探す。

16 名前:愛のVIP戦士[] 投稿日:2007/02/13(火) 00:59:32.40 ID:J3+/Z9j+0
やっと見つけた個人病院。
名前は『ペニサス泌尿器科』

(´<_` )「すみませーん!」

('、`*川「あらあら、どうしたの?」

中から、暇そうな女医が顔を出した。

弟者は抱いている兄者を差し出す。

(´<_` )「兄が、鳥インフルエンザにかかったみたいなんです」

('、`*川「まぁ、それは大変。……え、兄?」

(´<_` )「はい、兄者です」

('、`*川「うーん、そもそも私泌尿器科のお医者さんなのよね」

(´<_` )「あれ? 看板に内科って書いてませんでした?」

('、`*川「書いてませんでした」

(´<_` )「困ったな」

18 名前:愛のVIP戦士[] 投稿日:2007/02/13(火) 01:00:06.01 ID:J3+/Z9j+0
('、`*川「それに……え、兄?」

(´<_` )「はい」

('、`*川「ちっちゃいね」

(´<_` )「もう、それはもう」

('、`*川「えっと……ええっと……私はどうすればいいの?」

(´<_` )「兄者を元に戻してください」

('、`*川「無理な相談ね。これあれでしょ? どこかの名探偵みたいに薬飲まされたんでしょ」

(´<_` )「テトロドトキシン?」

('、`*川「そう、それ。まずは阿笠博士から探さないと」

腕を組む弟者。

19 名前:愛のVIP戦士[] 投稿日:2007/02/13(火) 01:00:31.53 ID:J3+/Z9j+0
(´<_` )「っていうか、コイツ俺を見た途端に懐きだしたんですけど」

('、`*川「あー、あれよ。刷り込み」

(´<_` )「なーるほど」

('、`*川「ふむ……で、本当に兄なの?」

(´<_` )「はい、オムツに兄者って書いてますし、背広も着てましたし」

('、`*川「ああ、今手に持ってるやつ?
     じゃあ兄さんなのか」

(´<_` )「あきらめるべきですか?」

('、`*川「そーね。ああ、住所教えてよ」

(´<_` )「え、なんで?」

('、`*川「興味が湧いた。時々往診に行ってあげるわ」

適当な広告の裏とペンを差し出すペニサス女医。
受け取った弟者はうろ覚えの住所を書き記す。

21 名前:愛のVIP戦士[] 投稿日:2007/02/13(火) 01:01:02.60 ID:J3+/Z9j+0
(´<_` )「それで……いくら払えば?」

('、`*川「あー、今日は私なんにもしてないし、無料でいいです」

(´<_` )「それはありがたや」

( ´_ゝ`)「ばぁ、ばぶ?」

(´<_` )「うん、もうすぐ家に帰れるからねー」

('、`*川「お大事にー」

病院を出る二人。
そういえば、ペニサス女医以外誰もいなかったな、と今更思い返す。

兄者は何も言わない。
泣き出さないだけ、マシといえるか。

(´<_` )「……はっ!」

ここで弟者は、重大なことに気づいた。

22 名前:愛のVIP戦士[] 投稿日:2007/02/13(火) 01:01:39.68 ID:J3+/Z9j+0
(´<_` )「俺、どうやって生きていけばいいんだ?」

赤子と化した兄者が会社に行けるはずもない。
いくらか貯金があるだろうが、所詮新入社員。額は知れている。

(´<_` )「俺、いきなりの路上生活か? ロジョーか、俺」

目下のところそれが最大の問題だ……。
イノセントな目で見つめてくる兄者をあやしながら、弟者はマンションへ戻ることにした。

そういえば鍵がない。
と思ったが、背広に入っていた。

(´<_` )「辞表って俺が書いてもいいのかな?」

そんな感じで三階へ。

そこで、弟者は誰かの怒号を聞きつけた。

「出てきなさいよ!!!」

23 名前:愛のVIP戦士[] 投稿日:2007/02/13(火) 01:02:05.24 ID:J3+/Z9j+0
「何、私にはもう飽きたの?
 もう一緒に住むことはできないの?
 このバッグは誰の!?」

どうやら、302号室付近からの声だ。

(´<_` )「今日は問題山積みだな」

( ´_ゝ`)「……ぱぱぁ」

兄者の発言を無視して、弟者は歩調を早める。

「ああ、私は何かあなたに悪いことをしたの!?
 いつから不倫してたのよ!!」

(´<_` )「あ、あのう」

その人物の方を叩く。
キッという効果音が聞こえてきそうな動作で、彼は振り向いた。

( ,,゚Д゚)「何よ!?」

24 名前:愛のVIP戦士[] 投稿日:2007/02/13(火) 01:02:41.80 ID:J3+/Z9j+0
(´<_` )「失礼ですが、どちらさまで?」

( ,,゚Д゚)「何よぅ、子持ちに興味は無いわよ!!
      ……はっ、まさかあなたが彼の浮気相手!?」

(´<_` )「え」

( ,,゚Д゚)「そういえば顔が似てる……近親相姦なのね!? そうなのね!?」

赤いチャイナドレスに身を包んだロングヘアーの男は、あらんかぎりの怒号を吐いて弟者に詰め寄る。

( ,,゚Д゚)「ああ、言ってくれれば整形手術したの……その子はあなたの子供!?
      孕んだの!?」

(´<_` )「いえ、違います。
       俺は兄者の浮気相手じゃありません」

( ,,゚Д゚)「じゃあなんなのよ!」

半狂乱の男をなんとか鎮めて、弟者は事情を話す。

かくかくしかじか。

25 名前:愛のVIP戦士[] 投稿日:2007/02/13(火) 01:03:07.52 ID:J3+/Z9j+0
( ,,゚Д゚)「じゃあ、このバッグはあんたのなのなの?」

(´<_` )「そういうことですです」

( ,,゚Д゚)「なんだぁ」

ペタンと尻餅をつく男。

(´<_` )「それで……あなたは?」

( ,,゚Д゚)「ギコよ」

(´<_` )「兄者の友人か何かですか?」

( ,,゚Д゚)「こ・い・び・と」

(´<_` )「把握」

いつの間に同性愛に走ったんだろう。
弟者は考える。
昔は普通の女の子が好きだったはずだが。

(´<_` )(つまり、メゾン・ド・GのGはゲイの略なのか)

26 名前:愛のVIP戦士[] 投稿日:2007/02/13(火) 01:03:46.17 ID:J3+/Z9j+0
( ,,゚Д゚)「とにかくお邪魔するわ……鍵もってんの?」

(´<_` )「ああ、はい……でも」

( ,,゚Д゚)「え?」

(´<_` )「兄者、こんな姿になっちゃったんですが」

弟者がすでに眠ってしまった兄者を見せびらかす。

( ,,゚Д゚)「……ああ、オッケー。ストライクゾーン」

(´<_` )「それはよかった」

・・・

・・



第一話 おしまい。



  ←戻る ↑home