171 名前:めそ ◆S2hhsJXtvQ [] 投稿日:2007/02/12(月) 12:41:46.58 ID:nR8UjTD2O
例えばの話。
風邪で学校を休んだ彼女のお見舞いをしようと
未だ訪ねたことのない彼女の家まで勢いで来てしまったとしたら、
何と言って家に入るべきか。

('A`)「いや、別に入らなくてもいいのか?」

彼女は学校を休むような病気をしているのだから、
尋ねれば当然彼女の家族が出てくるだろう。
そうしたら何と挨拶したらいいものか。

('A`)「素直さんに学校のプリント渡しに…いや…お見舞いに来ましたってホントの事言った方がいいかな…」

こういう時に内藤が居れば、持ち前の明るさで何とかしてくれるのだろうが、
奴は帰りのHRが終わると同時に
ツンに首根っこをふんづかまえられて引きずられていってしまったのだった。

('A`)「ええい、ままよ!」

勢いだけでインターホンを押してしまった。
俺の心はこの時点で既に後悔の念に支配されつつある。

ピ川 ゜‐゜)「はい」ンポーン

('A`)「速ッ!?」

インターホンが鳴り止む前に顔を出したクーに少しぎょっとしたが、
反面、出てきたのがクーの家族でなくて良かったと胸を撫で降ろしもした。

173 名前:めそ ◆S2hhsJXtvQ [] 投稿日:2007/02/12(月) 12:43:03.54 ID:nR8UjTD2O
川 ゜‐゜)「ドクオか…」
('A`)「あ、助かった。クーが出てくれて。ちょっとお見舞いに、あとプリント……」

言いながら膝で支えた鞄に手を入れたところで、
違和感が俺の頭の後ろの方をかすめていった。
何か、何だろう、何か気になることが、あった。
違和感の正体を掴むためにクーの顔をまじまじと見てしまう。

川 ゜‐゜)「どうした?」
('A`)「…クー、熱、何度ある?」
川 ゜‐゜)「…39℃あったかな」
('A`)「バカか!何で出てきた!」

クーは俺の剣幕に少し驚いたようだった。
当然だ、俺がいちばん驚いている。

('A`)「家の人は?」
川 ゜‐゜)「仕事で出ている」

紅潮した顔、荒い息遣い、そして何より、
それらを隠そうとしている様子が痛々しかった。
俺の視線は、門に寄りかかるようにしているクーの手に向けられた。

('A`)「ちょっとその手、離してちゃんと立ってみ」
川 ゜‐゜)「…」

案外と素直に言われた通りにするクー。
するとすぐにバランスを崩してふらあっと前に倒れそうになった。
やっぱりか、と思いながら体を支えてやる。

174 名前:めそ ◆S2hhsJXtvQ [] 投稿日:2007/02/12(月) 12:45:25.10 ID:nR8UjTD2O
('A`)「立ってるのもやっとなのに出てきたりすんな…。部屋はどこだよ」
川 ゚ -゚)「…二階の奥だ」

お姫様抱っこ、という選択肢が脳裏に浮かばないでもなかったが、
悲しいことに身長はクーの方が上なので、
できたのは肩を貸してやることだけだった。

175 名前:めそ ◆S2hhsJXtvQ [] 投稿日:2007/02/12(月) 12:47:43.81 ID:nR8UjTD2O


('A`)「よっこらせっと…」

ようやくたどり着いた部屋で、クーはベッドに寝かせてやるとすぐにすとん眠りに落ちてしまった。
思わず息をしているかどうか確めてしまった自分に苦笑する。

('A`)「…思ってたより女の子らしい部屋だな」

クーの傍らに座って改めて見回すと、年相応のかわいらしいぬいぐるみなどが目についた。
ごく普通の女子高生の部屋だ。変わったものがあるとすれば、
剣道具と大量の文庫本くらいのものか。
女子高生の部屋、という自分で思い浮かべたフレーズに甘美な響きを覚える。
いや自分だって現役男子高生なのだが。

(*'A`)「…おにゃのこの匂いがする」

川 ゚ -゚)「…ドクオ」
(;'A`)「ひゃいっ!?」

知らないうちに半立ちになって匂いを嗅いでいた自分の体を
大急ぎで床に座らせる。思わず正座にもなるさそりゃあ。

川 ゚ -゚)「その…悪いんだが…」
('A`)「どどどどした?」
川 ゚ -゚)「おかゆを作ってきてはくれないか…」
('A`)「あ、ああ。なんだそんなことか。わかった」

まだバクバク鳴っている心臓を思わず押さえながら返事をすると
やがてクーはまたすうすう寝息を立てはじめた。

178 名前:めそ ◆S2hhsJXtvQ [] 投稿日:2007/02/12(月) 12:50:50.80 ID:nR8UjTD2O



炊飯器の中に冷や飯が入っていることを確認すると、棚をあさって鍋を探し出した。
水を入れてコンロにかけたところで、思案する。
病人なのだから下手に凝ったモノを出しても食べづらいだろうが、薄味すぎるのも味気ないだろう。
一手間かけるだけで中華粥風にもできるのだが、材料がないかもしれない。
 伸びすぎた前髪などいじりながら思案しているところへ、
背後から玄関の開く音が聞こえてきた。家族の人が帰ってきたのだろうか

|д゚ )

 振り返ると、スーツ姿の男性が物陰からこちらを見ている。
挨拶をするべきかと口を開くより先に、向こうが動いた。

( ゚д゚ )

 ちょwwwwwwこっち見るなwwww
などと頭の中だけで叫んでいるうちに、
彼は無言でぐんぐん距離を詰めてきた。

( ゚д゚ )

 1m弱くらいまで接近しても止まる気配がない。

( ゜д ゜)
('A`)「ちょ、近い近い近い!」

 触れそうなくらい近付いてきたところで、
思わず腕を突き出して制止した。

179 名前:めそ ◆S2hhsJXtvQ [] 投稿日:2007/02/12(月) 12:52:26.28 ID:nR8UjTD2O
('A`)「あの、お家の方ですか」
( ゜д ゜)「お家の方だね」
('A`)「ク…素直さんのお父さんですか」
( ゜д ゜)「お父さんだね」
('A`)「お邪魔してます」
( ゜д ゜)「いらっしゃい」

するとお父さんは俺の脇を抜けて、奥の部屋へと消えてしまった。
いたたまれずに、というよりも
どうしていいかわからず居ると、5分と経たずに戻ってきた。
セーターにスラックスという格好になっていて、
なるほど着替えてきたのかと納得する。
お父さんは次に冷蔵庫からお茶を出してコップに注ぐと、
すぐに飲み干した。俺はそれをただ見ているしかない。

( ゚д゚ )「で、君はどちら様?」
('A`)「遅ッ!?」

180 名前:めそ ◆S2hhsJXtvQ [] 投稿日:2007/02/12(月) 12:54:00.20 ID:nR8UjTD2O
('A`)「あ、すんません。素直さんのクラスメイトのドクオといいます」
( ゚д゚ )「ドクオくんだね」
('A`)「えーと、今日は素直さんのお見舞いに…」
( ゚д゚ )「鍋」
('A`)「へ?」
( ゚д゚ )「鍋、噴いちゃってる」
('A`)「うお!?」

見ると、鍋の中身がえらい勢いで沸騰して、蓋がカタカタと音を立てていた。
慌ててコンロのツマミを捻って火を止める。
まだご飯を投入していなかったのが救いか。

( ゚д゚ )「気を付けて」
('A`)「サーセン」
( ゚д゚ )「うちのクーに何か作ってるんだね?」
('A`)「はあ、お粥を」
( ゚д゚ )「調味料はだいたいそこに置いてあるから」

指さした方向にあったのは、冷蔵庫のてっぺんに並べられた瓶やパッケージ。
俺がそれに目を向けている間に、お父さんは立ち上がって出て行こうとしていた。
引き止めるのも何かおかしい気がして、無言で見送る形になってしまう。

('A`)「…変わった人なんだな、クーのお父さんて」

182 名前:めそ ◆S2hhsJXtvQ [] 投稿日:2007/02/12(月) 12:55:34.12 ID:nR8UjTD2O



 昆布でダシをとって、ご飯を入れたあとに卵白のみをお粥に混ぜ、
白身が綺麗に馴染んだところで卵黄をのせて蓋をする
というような、自分の食事ならば面倒で決してしない手間をかけたお粥が完成した。

('A`)「食べられるか?」
川 ゚ -゚)「ああ、大丈夫だ」

あーん、とかやってみたくないわけじゃない
っていうかそんなクーも見たくて仕方ないんだが、
本人が大丈夫だというのだから仕方がない。

川 ゚ -゚)「…美味しい」
('A`)「黄身はつぶして、好みで風味の足しにしていってくれ」
川 ゚ -゚)「ドクオ、料理できるんだな」
('A`)「大したものができるわけじゃないさ」
川 ゚ -゚)「私が作るより美味しいぞこれは」
('A`)「しばらく食べられてなかったから、うまく感じるんだろ」
川 ゚ -゚)「そんなことない、美味しい」
('A`)「俺の作ったもんなんか…」

褒められている時でもつい口からら出てくる言い訳を、塞がれた。

…塞がれた?

唇の感触が消えて、クーの顔が離れていくのを視認して
漸く、キスをされたのだと理解した。
それと同時に、自分の顔が赤くなっていく音を聞く。

183 名前:めそ ◆S2hhsJXtvQ [] 投稿日:2007/02/12(月) 12:56:27.25 ID:nR8UjTD2O
川 ゚ -゚)「しまった」
('A`)「…どうした」
川 ゚ -゚)「風邪がうつるかもしれない」
('A`)「クーは熱があってもクールだな」
川 ゚ -゚)「それは、うまいこと言ったつもりなのか」

二人してクスクス笑いをもらす。
いや正直俺はこっぱずかしくて死にそうなのだが、
クーは素直に行動しただけなのだから責めようもない。

それに、好きな気持ちを抑えきれないのは、俺も一緒なのだ。

184 名前:めそ ◆S2hhsJXtvQ [] 投稿日:2007/02/12(月) 12:57:27.39 ID:nR8UjTD2O


クーがお粥を食べ終わるのを見届けて、
ひとしきり雑談しているうちに空は暗くなりはじめていた。
もういい時間だな、と傍らの鞄に手を伸ばす。

('A`)「…最後に訊いときたいんだが」
川 ゚ -゚)「何だ?」
('A`)「玄関で待ってたろ、俺が来たとき」
川 ゚ -゚)「ああ」

やっぱりか、と思うと同時に彼女が心配になってくる。

川 ゚ -゚)「君は来てくれるだろうと思っていた。待ちきれなくてな」
('A`)「…」

心配の次に嬉しさが込み上げてきてしまい、何と言っていいものかかわからなくなってしまった。

つい娘を甘やかしてしまう父親の気持ちってこんなんか、
などと心の中でぼやきながら帰り道を歩いたのだった。

186 名前:めそ ◆S2hhsJXtvQ [] 投稿日:2007/02/12(月) 12:59:51.37 ID:nR8UjTD2O
♯蛇足


('A`)「そういえば、クー、もう一つ訊きたいんだが」

川 ゚ -゚)「まだ何かあるのか」

('A`)「なんか前半やたら太ってなかったか」

川 ゚ -゚)「気のせいだ」

('A`)「いやでも明らかに…」

川 ゚ -゚)「おたふく風邪だ」

('A`)「…ソウデスカ」

川 ゚ -゚)「ああ、誰が何と言おうとおたふく風邪だ」



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