573 名前:愛のVIP戦士[] 投稿日:2007/01/31(水) 20:47:00.72 ID:DOfgVUFJ0
('A`)「もう俺に生きていく理由は無くなった」
そんなことを口ずさんでいるこの男はドクオ。
無職。先日母親が亡くなったためついに生きる糧を失った。
そこでドクオは一つ賭けをしたのだ。
駅のホームに立ち、一時間以内に神山満月から
「お兄ちゃん、私が妹になってあげるから自殺しないで!」
と背後から叫ばれることに賭けたのだ。
成功すればとりあえず下着を盗む。
失敗すれば、一歩踏み出し線路に落下すればいいだけの話である。
まぁこの手段もカバンの中に入っている包丁で手首を切ることに失敗したがため、なのだが。
午後三時。
賭けは、スタートした。
電車が停車するたびに、ただ呆然と突っ立っているドクオは邪魔者になる。
ある客はドクオを睨み、ある客は舌打ちをしながら彼を避けていた。
だがドクオは、時折接触する他人の肩すら感じていなかった。
何せ、一世一代の大ばくちの真っ最中だからである。
某福本漫画であればこの心理描写だけで一ヶ月が経過するだろう。
574 名前:愛のVIP戦士[] 投稿日:2007/01/31(水) 20:47:26.90 ID:DOfgVUFJ0
刻々と時は過ぎるが、誰も声をかけてこない。
いやむしろ、先ほどから駅員がチラチラとドクオを見ている。
もうすぐ彼が声をかけそうな雰囲気だ。
三時半。
ついに駅員がドクオに近づき、その肩を叩こうとした。
しかし、そこに横入りする者が現れたのだ。
(´・ω・`)「おい、ドクオ」
('A`)「あ?」
声だけで神山満月でないとわかったドクオはさして興味を伴わなずに振り返る。
そこに、高校時代の友人が立っていた。
(´・ω・`)「何やってんだ」
('A`)「うるせえな。ほっとけ、しょぼん。
もうすぐ俺を満月ちゃんが呼びにくるんだ」
(´・ω・`)「ドクオ、お前ついに二次元に入り込む方法を編み出したのか」
ほうほう、と感心しきりの友人、もといしょぼん。
('A`)「あと三十分だぜ」
575 名前:愛のVIP戦士[] 投稿日:2007/01/31(水) 20:47:51.84 ID:DOfgVUFJ0
(´・ω・`)「それよりさー、ドクオ。これからアキバでお茶しねえ?」
くい、くいとしょぼんが親指で線路の向こうを示す。
よく見ると彼は手にシャナの抱き枕、墨で「萌え」と書かれたシャツを着ていた。
先ほどから閑古鳥の鳴き声が聞こえるような気がしていたが、どうやらこいつが原因らしい。
一見すると危険物だがその実体はやっぱり危険物とはまさにこいつのことだろう。
('A`)「うるせえ、三次元に興味はない。つーか三次元って何?」
(´・ω・`)「つれねえな。この前正月にスイートクラブに行ったらマミたんが年賀はがき書いてくれたぜ」
スイートクラブとはメイド喫茶。
マミとはそこで働く大して可愛くもないメイドである。
ちなみにフィリピン人。
しょぼんは腰に巻いているバッグから一枚の紙を取り出し、ドクオに見せつける。
そこに、蛍光ペンで書かれたお世辞が並べられていた。
(´・ω・`)「また来てくださいね、お兄ちゃん、って言われてさあ。俺もう何?
マイハートが彼女の愛情でバーンアウトしちゃってさあ」
('A`)「てめえの両親日本人だろうが」
576 名前:愛のVIP戦士[] 投稿日:2007/01/31(水) 20:48:28.41 ID:DOfgVUFJ0
(´・ω・`)「とにかく、な、行こうぜ!」
しょぼんがイカ臭い手でドクオを引っ張る。
よく見ると彼の手にはスルメが握られていた。
('A`)「いやだよ。満月ちゃんが呼んでくれるまで俺は一歩もうごかねえ」
(´・ω・`)「おいおい、そろそろ三次元に戻るのもいいと思いますぞ?」
そんな頃合いである。
ちょうどいいタイミングで電車がホームに滑り込んできた。
空気が抜けるような音と共にドアが開き、まばらな客がはき出される。
まさにその瞬間だった。
ドクオの耳に、微かに彼女の声が聞こえたのは。
「お兄ちゃん、私が妹になってあげるから自殺しないで!」
('A`)「満月ちゃん!?」
しかしそこには誰もいなかった。
脱力したドクオを、しょぼんが無理矢理電車に引きずり込む。
577 名前:愛のVIP戦士[] 投稿日:2007/01/31(水) 20:49:01.44 ID:DOfgVUFJ0
('A`)「満月ちゃん満月ちゃん満月ちゃん満月ちゃん満月ちゃん満月ちゃん満月ちゃん満月ちゃん満月ちゃん
満月ちゃん満月ちゃん満月ちゃん満月ちゃん満月ちゃん満月ちゃん満月ちゃん満月ちゃん満月ちゃん
満月ちゃん満月ちゃん満月ちゃん満月ちゃん満月ちゃん満月ちゃん満月ちゃん満月ちゃん満月ちゃん
満月ちゃん満月ちゃん満月ちゃん満月ちゃん満月ちゃん満月ちゃん満月ちゃん満月ちゃん満月ちゃん
満月ちゃん満月ちゃん満月ちゃん満月ちゃん満月ちゃん満月ちゃん満月ちゃん満月ちゃん満月ちゃん
満月ちゃん満月ちゃん満月ちゃん満月ちゃん満月ちゃん満月ちゃん満月ちゃん満月ちゃん……」
ドアの傍に立ち、ひたすら呪詛のように名前を呼び続けるドクオ。
(´・ω・`)「どーしたドクオ」
しかしそのつぶやきは途中で途切れた。
( ^ω^)「それをよこせお!」
後部車両からの悲鳴と怒声。
そして足音が迫ってきていた。
( ∵)「だ、だから言ってるでしょ! 十万円で取引しましょう、と!」
( ^ω^)「だから金はねーって言ってるお」
現れたのは二人の男だった。
一方は背広を着用したサラリーマン風。
もう一人は……どうみてもしょぼんと同類である。
579 名前:愛のVIP戦士[] 投稿日:2007/01/31(水) 20:49:55.85 ID:DOfgVUFJ0
(´・ω・`)「ヘイ、そこのボク」
しょぼんがなぜか声をかける。
同族としての、何か電波的なものを受信したのだろうか。
( ^ω^)「なんだお?」
(´・ω・`)「何を困っているのだい?」
あらましはこうだ。
( ∵)(ビコーズ)が( ^ω^)(ブーン)に声をかけた。
( ∵)「二次元の世界に入れる薬が、あと一つだけ残っているのですが、買いませんか?」
外見通り真性オタクのブーンは勿論それを欲しがった。
しかしビコーズはその薬に十万円という法外な値段をつけたのである。
ブーンは困った。手持ちは千円札しかない。
ビコーズは呟く。
どうせこれからアキバに行きますから、そこには欲しがる人が一杯いるでしょうね、と。
ブーンは焦燥にかられ、こうして詰め寄っている次第である。
580 名前:愛のVIP戦士[] 投稿日:2007/01/31(水) 20:50:39.63 ID:DOfgVUFJ0
('A`)「何ぃ!?」
反応したのはドクオだった。
彼は「二次元」という言葉を耳にしたあたりから彼らの話に興味を持ち始めたのである。
('A`)「くれ、それ俺にくれ!」
( ∵)「では十万円」
そういわれてドクオは苦悩する。
何せ一文無しの身なのだ。
十万円などあるはずもない。
そこで彼は、一つの計画を練った。
('A`)「おい、聞けえ愚民ども!」
その声は車両全体に響き渡った。
もはや狂乱状態のドクオに、電車内の光景はまともに見えていない。
彼はリュックから包丁を取り出すと、それをビコーズに向けた。
( ∵)「な、なんですか」
('A`)「こ、このリュックには爆弾が入ってるんだ」
( ∵)「え」
('A`)「俺にその薬をわたさねえと爆発させるぞ!」
581 名前:愛のVIP戦士[sage] 投稿日:2007/01/31(水) 20:51:18.02 ID:DOfgVUFJ0
なんという無茶苦茶な計略。
それに爆弾が入っていないことぐらい一目瞭然である。
しかしビコーズに突きつけられた包丁は本物。自殺に使おうとした代物である。
乗客が僅かに騒ぎ始める。
誰もが半信半疑と言った表情。
( ∵)「お、おやめなさい」
とりあえずビコーズはそう言ってみる。
('A`)「うるせえ!」
( ^ω^)「ちょ、それは俺がもらうんだお!」
(´・ω・`)「落ち着けよトゥギャザー」
魑魅魍魎を乗せた電車は減速を始めていた。
('A`)「おい、止めるなあ!」
すかさず、ドクオが運転席まで走る。
座っていたのは女だった。
582 名前:愛のVIP戦士[] 投稿日:2007/01/31(水) 20:52:03.71 ID:DOfgVUFJ0
川 ゚ -゚)「……」
その顔が結構美人だったのでドクオはしばしたじろいだ。
しかし「三次元ってなあに?」精神を発揮して彼女に包丁を向ける。
('A`)「爆弾、爆発させてもいいのか!? あ?」
川 ゚ -゚)「……」
彼女は何も言わず、再びスピードを上げた。
そして状況は整理される。
まず乗客が全員先頭車両に集められた。
彼らの前にドクオが立つ。
右手に包丁、左手にリュック。
そして包丁はビコーズののど元にあてがわれている。
ちなみに、誘導したのはしょぼんである。
('A`)「さ、さあどうするよ。それをタダでよこせえ!」
( ∵)「お、落ち着きなさい。そもそも効果があるかどうかもいまいち」
('A`)「んなこと知らん! 殺すぞ!」
583 名前:愛のVIP戦士[sage] 投稿日:2007/01/31(水) 20:52:36.64 ID:DOfgVUFJ0
彼の中で三次元は存在しない。
つまり、殺しても特に罪悪感は生まれないのである。
( ∵)「わ、わかりましたよ……」
そして彼は薬をドクオに手渡した。
('A`)「よし、よおし……フヒ、フヒヒヒヒヒヒ」
しかし次の瞬間。
突然、ドクオの身体がぐらりと揺れた。
薬が彼の手から転げ落ちる。
('A`)「あ……ぐ……」
彼は振り向き、前方を見る。
そこで、運転手が微笑を浮かべていた。
584 名前:愛のVIP戦士[sage] 投稿日:2007/01/31(水) 20:53:16.84 ID:DOfgVUFJ0
電車はちょうどアキハバラにある駅で停車した。
(´・ω・`)「あーあ、死んじゃった」
( ^ω^)「あれ、薬がないお!」
( ∵)「おかしいですねえ、確か彼はここらに倒れて……」
そのうち警察やなんやらが来て騒ぎになる。
しかし、誰もが一つ、疑問を持った。
運転手が、消えていたのだ。
586 名前:愛のVIP戦士[] 投稿日:2007/01/31(水) 20:54:34.62 ID:DOfgVUFJ0
川 ゚ -゚)「ふふ……計画通り」
運転手、もといクー、もといルパンは薬を片手ににやついていた。
雑踏に紛れ、歩く。
すでに服装は彼女固有のファッションに変わっていた。
背中には、黒いノートが挟まれていた。
そう、最近イケメン高校生からかっぱらったデスノートである。
そこにはこう記されていた。
ドクオ
自殺しようと駅のホームに立つが何らかの理由で乗車。
薬を売りつけてくるセールスマンを脅して薬を奪うが、その後心臓麻痺で死亡。
川 ゚ -゚)「最高の宝を盗む者の名はルパン・・・
このルパンより真の怪盗の歴史は始まるのだ!」
彼女は某警部の台詞を思い出していた。
そう、もうアノ声も聞かなくて済むのだ。
川 ゚ -゚)「今行くぞ……阿部さん……」
そして、彼女は薬を飲み込んだ。
その後のことは誰も知らない。
おしまい
以上 もうなんか死にたい
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