777 名前:愛のVIP戦士[] 投稿日:2007/01/28(日) 21:16:28.75 ID:M4ECgDXeO
心臓の音など聞いている余裕もなく、そっと、手を自販機の下へと潜りこませる。
徐々に、物の気配が近付いていく感覚。高々、数十cmの距離が長かった。

(;゚ω゚)「ヒャッ」

ビクリと、指を放した。指には冷たい感覚が残る。
恐る恐る、再び指を近付けると、そこには確かな感触があった。
思い切って握ると、やはり冷たく、重厚な力を感じた。
そっと手を引き抜く。
しっかり握られた手の中にあった物は、紛れもなく銃だった。

778 名前:愛のVIP戦士[] 投稿日:2007/01/28(日) 21:17:09.06 ID:M4ECgDXeO
改めて握りかえしてみると、不思議と強くなった気がした。
自分の部屋にいるから、安心しているのかもしれない。
銃を見付け、自販機の前でしばらく呆然と立ち尽くしていたブーンだったが、直ぐさま逃げ帰って来ていた。

( ^ω^)「黒くて固くて太ッといお……リボルバーって言うのかお?」

蛍光灯にかざせば、ズッシリとした重さをより感じる。
重厚な、黒い凶器。人一人など容易く殺せる物が手の中にあった。
だが、不思議と恐怖はなかった。優越感に似た興奮があるのみである。

( ^ω^)「お?」

そういえば、拾った辺りに弾は落ちていなかった。
いや、それなら、弾が無いからあそこに捨てたのでは?
ブーンは銃を目の高さに下ろすと、ゲームで見た様に構えた。
そっと、親指をマガジンリリースレバーにかける。
そのまま銃を傾ければ、弾倉が出た。
中に、くすんだ金色の弾が、一つだけあった。
慎重に取り出し、手の平に置くと、無償に怖かった。
銃ではなく、弾に触れて初めて恐怖する。
ブーンは、弾を出す時以上に、慎重に戻すと、銃を机に置いた。
先程まであった優越感など跡形もなく、ただただ後悔した。
何故拾って来たのだろうか、と。

779 名前:愛のVIP戦士[] 投稿日:2007/01/28(日) 21:18:01.80 ID:M4ECgDXeO
ショボンに彫刻刀を突き付けられた時の感覚が、鮮明に蘇る。
殺す意思など実際なくとも、柔らかい首でも一突きすれば、自分は容易く死ぬのだ。
コプ、コプと、声にならない声を漏らし、全身に熱い血が纏わりつく。
そう考えると、どうしようもないくらい怖かった。
ブーンは昔の様に、自然と涙を流していた。
その時は、「泣くな」と、ショボンに殴られた。
今考えれば、不思議とその時のブーンに、相手に対する殺意はなく、助かった安堵しかなかった。

( ;ω;)「おっおっ……大変なものを拾って来てしまったお」

銃は机に置いたまま、ブーンは力なくベッドに座り、泣いた。

( ;ω;)。oO(ブーンはあの銃で、何をしようとしてたお?)

あいも変わらず苛めるショボンを殺す?
止める所か、授業中までからかう担任を殺す?
それとも。

途端に、勢い良く立ち上がり、ヅカヅカと机に近付くと、銃を握った。
それを米噛みに突き付ける。
ブーンの顔は今や涙でグシャグシャだった。

( ;ω;)。oO(……それとも……自殺でもするかお?)

撃鉄は予想外に重かったが、ゆっくりと起こした。
カチリ、と音がして、ブーンは撃鉄から親指を外した。

781 名前:愛のVIP戦士[] 投稿日:2007/01/28(日) 21:18:43.38 ID:M4ECgDXeO
トリガーにかけた人指し指に、力が籠った。

余りにも部屋が静かで、耳鳴りがする。
ブーン自身が銃を突き付けているにも関わらず、殺される気分がした。
自殺の意味が少し分かった気がした。
呼吸は荒くなり、意識が否応なしに集まる米噛みに、血が流れているのが分かる。
涙はいつの間にか止まっていた。

( ^ω^)「怖わいお……恐かいお……多分一生分ぐらい恐いお」

高ぶっていたブーンの精神は、今は冷めていた。
今から交番に届けに行こう、と考えた。

その瞬間、外で瓶を割る甲高い音が鳴り響いた。
驚いたブーンは、思わず人指し指に力が入る。

( ゚ω゚)「………」

トリガーが最後まで入る、確かな感触があった。
全身が一瞬にして固まった。

782 名前:愛のVIP戦士[] 投稿日:2007/01/28(日) 21:19:24.96 ID:M4ECgDXeO
(;゚ω゚)「……お? 痛くないお……死ねば助かるのかお?」

外からは酔払いの声が聞こえる。
ブーンは咄嗟に、銃を、半ば投げる様にしてベッドに放った。
布団の上にある銃を見たら、今度は全身が震え出した。
状況を理解出来るはずが、出来ない。
頭の中がグチャグチャなのに、真っ白で何もない。
ようやく、目の前の銃が怖いと思ったら、全身の力が抜けて尻からへたりこんでいた。

(;゚ω゚)「お……お……? フヒッフヒヒ」

気付いけば、ブーンはわけもわからず笑っていた。
何が可笑しいのかは分からなかったが、心から嬉しかった。
良かった、助かって良かったと、心の中で叫んだ。

それから30分ほどして、ブーンも落ち着くと、銃をバッグに突っ込み家を出た。
自転車に跨がり、交番へと急ぐ。
夜のひんやりとした空気が、堪らなく気持ち良かった。
立ちこぎで、空気を一杯に吸い込んだら、また涙ぐみそうになった。

783 名前:愛のVIP戦士[] 投稿日:2007/01/28(日) 21:20:11.14 ID:M4ECgDXeO
銃を交番に届けると、家に連絡され、散々怒られたが、その日の内に帰る事が出来た。
親が必死に謝る姿は心苦しかったが、親が心配してくれた事は素直に嬉しかった。

翌日、ブーンは学校には行かず、リビングで親と向かい合っていた。
素直に苛めがあった事を話と、両親は泣きながら真剣にブーンの話を聞いた。
ショボンの名前は出さず、クラスの事、担任の事まで。
そうして、今までの事を話し終わると、胸のつかえが取れた様にスッキリした。

( ^ω^)「トーチャン、カーチャン、ブーンは転校するお」

一呼吸置いて、ブーンが言った。
逃げるのではなく、立ち向かう、清々しい顔だった。

終わり



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