( ^ω^)限りなく透明に近いブーン



289 名前:愛のVIP戦士[] 投稿日:2007/02/07(水) 20:10:44.79 ID:qtX+crzW0
>>262です。できたんで投下します。批評、感想等ありましたらお願いします。
お題
ベンチと阿部さん

干乾びた老爺
低温ロウソク
世界
正義の三脚


( ^ω^)限りなく透明に近いブーン

 2016年ドラえもんが生まれた年。ジャポニカ。VIP県。クオリティ市街のと
ある一角。国道8号線沿いのとある一軒屋。真夜中に鳴く一人の老人がいた。
('A`)「モル、モル、モルモル、モルヒネェ〜!!!」
 まもなく老人の耳にドタドタと足音が聞こえてきたかと思うと、するりと音
も無く襖を開け、座敷に一人の青年が姿を現し、青年はカチリと電灯を点した。

( ^ω^)「まったくモルモルうるさいジジィだお。また例のあれかお。
     今やるから静かにしてくれお。上でまだツンのやつが寝てるんだお。」
 やっと安心したのか老人はモルファ、とため息をつくと、肩を震わせて苦し
そうにしながらも身を起こすとあごを引き舌を突き出して虚空をさまよわせる。
今しがた部屋に入ってきた青年、このモルヒネジジィの息子ことブーンは、父
親のそんな姿をみてにやりと口元に笑みを浮かべると、あやしく目を光らせ、
老人の傍らに置いてある小型の手提げ金庫の暗証番号を素早く合わせ、中から
一本の透明な棒状のロウソクを取り出し、老人に声をかける。
( ^ω^)「熱くないでちゅからね〜。」

290 名前:愛のVIP戦士[] 投稿日:2007/02/07(水) 20:13:25.81 ID:qtX+crzW0
そういいながら医師から処方された現行法で最も強力な麻酔薬「ニート」をベ
ースにアシッド、エス、モルヒネをカクテルして固めた低温ロウソクに右手の
百円ライターで火を付け、斜め四十五度の角度から老人の舌上に狙いをつけて
しずしずと傾けた。
('A`)「アグ、グ、ウム…」
 ポトン、ポトン、と混沌を呼ぶかもしれない液体が舌になまぬるく突き抜け
る度に老人は呻き声を上げる。
( ^ω^)「親父、これでいいのかお?」
 もうすでに父親に自分の声など届いていないことは分かっている。
( ^ω^)「仕方がないんだおね。」
 もう一度呟くとブーンは自らの舌の上にも雫を垂らした。まもなく自らにも
この上の無い陶酔感がもたらされることだろう。そう、まるで神が降りてくる
ような。
( ^ω^)「うまいお。」
 そして彼は無意識の内に父親にもたれかかるように横たわると、目をつぶっ
てその時を待った。
( ^ω^)「仕方がないんだお。」
 そうだ。仕方ないのである。父、ドクオが癌との闘いを続けてもう五年にな
る。末期である父の生活の質を痛みから守るために医師から与えられた処方さ
れる分には合法のドラッグ、通称「阿部」、開発された当初、その道(ガチホ
モ)の愛好者が乱用したとされる、そのSM式低温ロウソク、その効果は絶大で
ある。この干乾びた老ジジィの病の悪化に伴い、いやがおうにも繰り返される
阿部の夜。いつしかブーンも父親に付き合う事で阿部を覚え、最早阿部無しで
はいられない体になってしまっていた。
 だが、ブーンは後悔していない。

 

291 名前:愛のVIP戦士[] 投稿日:2007/02/07(水) 20:15:37.98 ID:qtX+crzW0
( ^ω^)「とうちゃん…」
 こうして父親と共に寝る時、決して阿部のせいだけじゃない安心感に、ブー
ンは包まれていた。
('A`)「モルモルモル、グーグー」
 静かな部屋に、まるで動物のような老人のいびきだけが響いていた。
 
 その夜、ブーンは夢を見た。真っ青な空の下鮮やかな緑の芝の丘の上のベン
チの座っていると、まだ若かりしころの父親がこちらに走ってくる。彼は何事
かとおもってただ黙っていた。荒い息をつきながら父親は
('A`)「おい、ブーン!オレたちは地平線上のカメラマンなんだよ。正義の。
    な?わかるか?」
 まるでブーンが少年の頃のままであるかのように話しかけてくる父親。ブー
ンは目をパチクリパチクリさせるだけだ。
('A`)「おい、ブーン!例えばな、言葉は磨くと刀になるんだよ。伝家の宝刀
    って奴だ。な?わかるか?」
 あぁ、そうかもなぁ、なんて半分冗談でブーンが笑い流そうとすると、まだ
ありなんと父親は口を開いた。ブーンは空と父親を交互に見比べながら戸惑っ
てしまう。

292 名前:愛のVIP戦士[] 投稿日:2007/02/07(水) 20:20:55.76 ID:qtX+crzW0
('A`)「おい、ブーン!世界は瞬間の積み重ねなんだよ、だからな、オレたち
    はよう、こう、パシャパシャとだね、この地球の丘の上で地平線に睨
    みを聞かせてだね、カメラをかまえて取りまくるんだ。そうだ、この
    瞬間をだ。な?おい、分かるか?」
 といい父親はやたらめったら目をしばしばさせながら手を叩きまくってブー
ンに白い歯を見せて笑う。ブーンもなんだかおかしくて、なんだ、こいつだめ
だなぁ、なんて思いながら口からでまかせにでたらめでまぜっかえしにかかる。
( ^ω^)「父ちゃん、正義のカメラマンはいても、正義の三脚なんてどこにも売
    ってないお。明日一緒に買いにいくお。」
 だなんて。

 ブーンの夢見るその街では、国道8号線をこえると大型のスーパーやデパー
トがある。
 そのかわり国道8号線にストリートなんてない。
 ブーンは明日、父と一緒に8号線をこえる夢をみた。

                             おしまい


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