( ^ω^)ブーンはレッドカーペットを歩くようです
141 名前:ブーンはレッドカーペットを歩くようです[] 投稿日:2007/02/01(木) 20:51:19.30 ID:PVlh8HsQ0
('A`)「戦略には、向き不向きというものがある。解るか?」
ドクオはブーンに背を向け、ゆっくりと呟いた。
ブラインドに指をかけ、外の様子をうかがっている。
('A`)「……民衆蜂起は、長期戦には不向きなんだ。明確な指導者がいないからな」
ドクオは溜息をつき、座椅子に腰を落とす。
ボフッ、という心地良い音と共にドクオの身体が沈む。
('A`)「突発的な武装蜂起は一見、有効に見える。だが、重装備の正規兵にはとても敵わない。
統率も執れていないから、浮き足立ちやすい。こういう集団を何というか解るか? 少尉くん?」
(;^ω^)「烏合の衆ですかお?」
('∀`)「Exactly(そのとおりでございます)」
(;^ω^)「つまり、このデモ行進も同じだと?」
ドクオはくるりと座椅子を回す。荘厳に飾られた窓の外からは市民達の叫声が響き続けている。
ブーンを視界の中心に捉え、にたり、と笑った。
腕を組み、クククッ、と失笑する。
('∀`)「俺達の政府は、安泰ってことさ……、内藤武器庫少尉」
(;^ω^)「そんなもんですかお……」
民衆同盟会という大段幕が、幾重にも基地を取り囲んでいる。
その中に、"彼女"もいるのかもしれない。ブーンは静かに、司令官室を辞した。
142 名前:( ^ω^)ブーンはレッドカーペットを歩くようです[] 投稿日:2007/02/01(木) 20:51:46.65 ID:PVlh8HsQ0
基地司令官、ドクオ中佐の部屋を後にしたブーンは、
廊下を独り、とぼとぼ歩いていた。自分の軍靴の音が、やけに響く。
血色のレッドカーペットの廊下は、軍の権勢の象徴だった。
外で現状を訴える農民達は、ぼろぼろの服を纏っているというのに。
軍人は、レッドカーペットの上を闊歩する。
( ´ω`)「どちらが、正義……」
自分は何の為に軍に入ったのか。
( ´ω`)「正義を……、自分の正義を貫く為……」
ブーンは正義を貫きたかった。だが今の現場は何だ。
自分が護っているのは正義ではなく、正義を建前に禄を食む軍隊という組織そのものではないか。
守護すべき対象は、軍の利権ではなく市民の生活なのに。
これでは、本末転倒だ。目的と手段が、反転している。
(;^ω^)「いっそ、僕も武器庫から武器を奪って、市民軍側に……」
そこまで言いかけて、ブーンは口を閉ざした。
どこで誰が、自分の言葉に聞き耳を立てている変わらない。
ブーンは燦然と輝く、銃弾型の勲章をポケットにしまうと、腹の底から嘆息した。
143 名前:( ^ω^)ブーンはレッドカーペットを歩くようです[] 投稿日:2007/02/01(木) 20:52:17.08 ID:PVlh8HsQ0
ブーンは独り寂しく廊下を歩きながら、"彼女"のことを夢想していた。
( ´ω`)「あの頃が懐かしいお。ツンと遊んでた、あの頃が……」
何処までも広がる草原。
頬を撫でる春風。
可憐な野草を両手一杯に摘み、くるくると回るスカート。
でも声は思い出せなかった。自分のことをよく、弱虫と罵っていた声。
ツンの笑顔は、眩しかった。
自分の名誉欲にくすんでいる勲章などより、遙かに。
( ^ω^)「ツンは、今何をしてるんだろう」
そしてツンが今の自分の姿を見たら、どういうだろうか。
かつて健康的に肥えていた身体は、長年の軍事訓練の為
すっかりとシェイプアップされてしまっている。
ぷにぷにだったお腹は、六つに割れた腹筋に覆われ、ぶよぶよだった二の腕は
上腕二頭筋が取って代わった。かつての自分を消し去って、新たに手に入れた自分。強壮な肉体。
( ´ω`)「なんで僕は、軍人なんかに……?」
その脚は、長い回廊の突き当たりの一室の前で止まった。
エントランスの金属板に刻まれた部屋の名は、――『武器庫』だった。
144 名前:( ^ω^)ブーンはレッドカーペットを歩くようです[] 投稿日:2007/02/01(木) 20:52:37.06 ID:PVlh8HsQ0
自分だけが鍵を握る唯一の部屋。
この施設の心臓部にして、急所。
鍵を持つブーンが内側から鍵を掛ければ、司令官であるドクオ中佐以外入室は出来ない。
( ^ω^)「やっぱ、ここが一番落ち着くお」
武器だけが鎮座する空間。
そこまでして、何を護らねばならいのか。
( ´ω`)「もうわけわかんないお……イミフだお」
ブーンはラックに無防備に放置された一丁の拳銃に手を伸ばす。
( ^ω^)「……ただの、殺人兵器だお」
ブーンはポケットに拳銃を格納した。横領に当たることは解っていたが、どうでもよかった。
と、次の瞬間、突然武器庫のドアが開き、ブーンはぎょっとして身をかがめていた。
(;^ω^)「……え?」
145 名前:( ^ω^)ブーンはレッドカーペットを歩くようです[] 投稿日:2007/02/01(木) 20:52:59.67 ID:PVlh8HsQ0
キィ、という冷たい音を立てて武器庫の扉が開く。
筋状の光が、ブーンの隠れる区画の端に降り注ぐ。
ブーンは本能的に息を潜めていた。
( ^ω^)「おかしいお」
無声音でブーンは呟いた。
光の筋がほこりを浮かび上げている。
軍靴が、冷徹なコンクリートの床に響く。
(;^ω^)「どうして、ここの鍵が開いたんだお?」
ブーンは自分のポケットをまさぐる。
そこには確かに、先ほどくすねた拳銃と、……武器庫の鍵があった。
(;^ω^)「鍵は僕が持ってる。つまり、誰にも開けられないはず。……いや、まさか」
ぴたりと軍靴の音が止み、麗質な話し声が響く。
146 名前:( ^ω^)ブーンはレッドカーペットを歩くようです[] 投稿日:2007/02/01(木) 20:53:20.38 ID:PVlh8HsQ0
「遅かったですね。会長さん」
「……早く蹴りを付けてしまいましょう。これ以上の戦線の無駄な延長はこちらも避けたいですからね」
「存じておりますよ。我が軍としても、大規模なデモ行進には武力を持って鎮圧をしなくてはならない」
「双方の損害は最小限。それだけで、あなたは約束のものを手にすることが出来ます」
「あなたにとっても、それは同じでしょう。偽善ぶらないで頂きたい。
所詮我々は、同じ穴の狢なのですからね。……民衆同盟会、会長さん?」
ブーンは、思わず絶句していた。
それはこの二人が、双方の勢力の人間だからではない。
ましてや、軍側の対話者が、軍の総帥であるドクオ中佐だからではない。
(lli゚ω゚)「…………嘘だ」
聞き覚えのある声。
あのやさしくて、ほほえましくて、かわいくて……ずっとずっと、聞きたかった声。
理想を追い求め、自分とは袂を分かった、愛しい人の声。
ずっとずっと、聞きたかったのに。
つい今まで、忘れていた声。
ξ゚听)ξ「……わたしは、わたしの正義を貫くだけ。あなたには解らないでしょうけど」
147 名前:( ^ω^)ブーンはレッドカーペットを歩くようです[] 投稿日:2007/02/01(木) 20:53:58.77 ID:PVlh8HsQ0
緊張、焦燥、動揺……。
数え切れない悪寒が、ブーンの心を掻き乱す。
何故ツンがここにいる? ツンは何の話をしている!?
話に集中しすぎていたブーンの脚が、ラックに接触した、次の瞬間。
ξ )ξ「誰だッ!!」
(lli゚ω゚)「はひィッ!!」
全身の神経が硬直する。
冷や汗が全身から溢れ出る。逃げなければ。だが、何処へ?
この完全に閉鎖された武器庫から、ドクオ中佐とツンの目を盗んで何処へ逃げる?
一瞬のうちに、ブーンは自己の破滅を悟った。
( ^ω^)「間違いなくあれは密談。盗聴となれば間違いなく抹殺」
もう嫌だ。こんな人生なら、逃げてしまいたい。逃げて楽になろう。逃げて……楽に。
すぐさまブーンは拳銃をこめかみに当て、引き金に指をかけ、力を入れた。
ξ゚听)ξ「……逃げるな、弱虫ッ!!」
148 名前:( ^ω^)ブーンはレッドカーペットを歩くようです[] 投稿日:2007/02/01(木) 20:54:15.88 ID:PVlh8HsQ0
何が起こったのか、一瞬解らなかった。
いや、ドクオ中佐とツンが、何者かを追って武器庫から姿を消した今でも、
状況良く理解できないでいる。
(lli゚ω゚)「ハァーッ! ハァーッ!」
過呼吸になりそうなほど、その息は荒い。
昔誰かに教えてもらったように、両手で口と鼻を覆う。
徐々に落ち着きを取り戻し始めた脳が、状況を取り纏めた。
( ^ω^)「ぼくは……助かった?」
手にした拳銃が、ぽろりとこぼれ落ちる。
オートマチック式のその拳銃には、弾が込められていなかった。
と、突然全身の筋肉が急に弛緩し、へたりとその場で腰が砕けた。
( ´ω`)「……ツン。どうして」
どうして、取引なんか……。
理想に燃えていたんじゃなかったのか。自分の使命を胸に抱いていたんじゃなかったのか。
ツンは、理想から逃げ出したのか。
149 名前:( ^ω^)ブーンはレッドカーペットを歩くようです[] 投稿日:2007/02/01(木) 20:54:36.94 ID:PVlh8HsQ0
( ^ω^)「違う! きっと、ツンは戦っているんだお。ブーンにはわからない世界で……」
( ^ω^)「ブーンは、もう、逃げない」
ブーンはゆっくりと、ラックにしがみつき立ち上がった。
ツンは言っていたじゃないか。
逃げるな、と。
あれは本当に、廊下にいた侵入者に対してだったのだろうか。
ひょっとすると。
(*^ω^)「ツン、ぼくはまだ忘れちゃいないお」
ブーンはゆっくりと、ポケットから勲章を……弾丸の形をした勲章を取り出す。
( ^ω^)「ぼくの理想は――、ツン、キミと二人で暮らすこと。戦争のない、平和な世界で」
ブーンは、金色に光る弾丸を、装填する。
そのまま、ゆっくりと、歩き出す。
ツンの平和な、日々を夢見て。
( ^ω^)「ぼくはもう、弱虫じゃない。理想を達成したらぼくは弱虫じゃない……」
いつのまにかブーンの心では、――大切な何かが反転していた。
殺人兵器を片手に構え、ブーンが歩く、その道は――。
血にまみれた、レッドカーペット。
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