第一章


3 名前:愛のVIP戦士[] 投稿日:2007/02/17(土) 20:42:16.28 ID:hBMEFy4d0
―ブーンとドクオは民俗学者なようです―

第一記録:嵯守峨村食人伝説

第一章

( ^ω^)「ドクオ助手。目的地はまだかお?」

(;'A`) 「内藤教授、高速降りた時も言いましたが、山奥なんですからあと1時間ちょっとは掛かりますよ」

( ´ω`)「ぼかぁ、もう腰が痛くて痛くて」

('A`) 「…最初はあんなに乗り気だったじゃないですか、
    つかさっき狩唐で休んでから10分経ってませんよ…」」

4 名前:愛のVIP戦士[] 投稿日:2007/02/17(土) 20:42:47.21 ID:hBMEFy4d0
―――――

辺りは一面の雪景色。
暖冬だ雪が降らないなんだと騒がれたのも何処へやら、
1月半ばから日本を覆いつくした寒気のお陰で日本中は大豪雪に襲われています。
東京じゃ電車は止まるわ怪我人は出るわの大騒ぎ、喜んでいるのは子供だけです。

とは言えどこちらとは比べるべくも無いと言うか。

申し遅れました、俺は上巳大学大学院で民俗学を研究している佐々木ドクオと言います。
そして、こっちで涎を垂らしながらだらしなく座席に転がっているのが内藤ホライゾン教授。
一応民俗学会においては結構知られた人物なんですが、こうして見るとただの50過ぎたオッサンにしか見えません。

さて、俺たちは今新潟県糸魚川市の国道8号線、つまり日本海沿いの国道を西へ行った後
148号線へ入り、更に平岩付近で大所川沿いに…なんて説明すると訳がわからなくなるので、
もっと簡略化して説明すると新潟県の長野・富山県境近くの嵯守峨村へ向かっています。

村と言ってもそれは俗称で、正式には新潟県狩唐市嵯守峨地区。

要するに狩唐市内の一集落に過ぎないのですが、現地では狩唐市と
合併する前と同じく村と呼ばれているそうなので、俺達もそれに習ってそう呼んでいます。

5 名前:愛のVIP戦士[] 投稿日:2007/02/17(土) 20:43:03.57 ID:hBMEFy4d0
目的は村に伝わるある伝説に纏わる事実を調査研究する為。
要するに調査旅行です。

2月12日から18日までの7日間の調査予定で、今日のところは遅いので着き次第
自治会長、つまり村長宅に泊めてもらう約束なんですが、何分地理が全くわからない場所なので中々思うように進めず…。

今は大体午後6時頃、あと30分ちょっとは掛かると見て、着く頃には7時近いでしょう。

そして暫く車を進め、何とか目的地を窺おうとする頃。

( ^ω^)「ところで助手君」

('A`) 「なんですか? 教授」

(* ^ω^)「さっきは誰に向かって喋ってたお?」

('A`) 「オラクルです。別に教授が喋ってもいいんですよ」

( ^ω^)「いやいや、説明は君に任せるお」

そんな会話をしているせいで注意力が削がれたのか、

6 名前:愛のVIP戦士[] 投稿日:2007/02/17(土) 20:43:17.80 ID:hBMEFy4d0
車体が揺れる感覚の直後に固い物同士が擦れるような何か嫌な音が。

それっきりバックしようとしても全く動かず堪らず外に出た俺の目にしたものは、
左前の車輪が道から外れた上に、尖った石のようなものに乗り上げ傷ついた哀れなレンタカーの姿。

(;'A`) (げぇ…こりゃ修理代取られるな。それにしてもどうすりゃいいんだ)

その時いつの間にか脇に来ていた教授が一言。

(* ^ω^)「ご臨終です」

(#'A`) 「そうじゃねぇだろオッサァァァァァン!!!」

(* ^ω^)「おっおっお。教授に向かってその物言いとはひでぇ助手だお」

(#'A`) 「の割に傷ついた気配どころか、罪悪感すら感じさせないその笑顔はなんだぁぁぁぁぁくぁうぇるじこlp;」

恥ずかしながら思いっきりぶち切れていた俺は、直ぐ近くまで来ていた緑色のワンボックスカーと、
降りてきた夫婦と思われる30台半ばの男女に気がつきませんでした。

( ,,゚Д゚) 「あのー」

7 名前:愛のVIP戦士[] 投稿日:2007/02/17(土) 20:43:33.43 ID:hBMEFy4d0

(#'A`) 「なんですかぁぁぁぁ!?」

(; ,,゚Д゚) 「いえ、その。どうやら車が大変な事になっているようだったので助けになれば、と」

('A`) 「…へ?」

(;'A`) 「……あ、いや、あの、ええと、その。すいませんでした!」

突然現れた救いの神に怒鳴りつけてしまった、そう考えたら居ても立ってもいられず
思いっきり頭を下げて謝るくらいしか考え付きませんでした。

幸いにしてお二人は大して気にしていませんよ、と言って笑ってくれたので
俺とバカは凍死の憂き目を見なくて済んだのですが。

( ^ω^)「それにしてもさっきは取り乱しすぎだお。そんなんだから彼女が出来ないんだお」

8 名前:愛のVIP戦士[] 投稿日:2007/02/17(土) 20:44:05.42 ID:hBMEFy4d0

五月蝿い。
誰のせいだと思ってるんだ。

その後何とか後ろから引っ張ってもらって、乗ってきた車を道まで戻し、
――最も、そのせいで酷い傷が増えたものの――

折角だから、としぃさんに誘われ車を邪魔にならない位置へ寄せてお二人の車でお邪魔する事になりました。

(*゚ー゚)「それじゃあ、お二人は嵯守峨村へ調査旅行に?」

( ^ω^)「その通りですお。今日は村長さんの家に泊めてもらう約束だお。
       でも、なんだかんだで着くのは完全に夜になりそうですお。」

('A`) 「その原因の多くは教授のせいですけどね」

9 名前:愛のVIP戦士[] 投稿日:2007/02/17(土) 20:44:34.88 ID:hBMEFy4d0

( ,,゚Д゚) 「嵯守峨村の村長宅…と言えば俺たちの家だよな?」

(*゚ー゚)「ええ、えらい偶然…」

('A`) 「へ? それはどういう事ですか?」

( ,,゚Д゚) 「気が付きませんでしたか?私たちの苗字」

( ゜ω゜)「さすが…成る程、そういう事かお!」

(;'A`) 「え? 何がどうしたってんですか、教授」

( ^ω^)「助手君。君も意外と鈍いお」

そう言うと教授は二人の方を向いてしたり顔で言う。

10 名前:愛のVIP戦士[] 投稿日:2007/02/17(土) 20:44:55.90 ID:hBMEFy4d0

(* ^ω^)「申し訳ないけど、このバカ助手に教えてやって欲しいお」

あんたにバカ言われたくない、と心の中で反論しつつも二人が何やらメモ帳を取り出して書いている姿を窺う。
教授の方を向くと相変わらずニヤニヤ笑っている、非常に屈辱的だ。

( ,,゚Д゚)ノ□「これを」

彼が差し出したメモ帳には名前らしき字が。

   嵯守峨 儀仔
   嵯守峨 しぃ

('A`) 「これは…ってまさか!?」

( ,,゚Д゚) 「そうです、私が嵯守峨村村長の嵯守峨儀朗の息子です」

11 名前:愛のVIP戦士[] 投稿日:2007/02/17(土) 20:45:17.75 ID:hBMEFy4d0

(*゚ー゚)「そして、私がその妻しぃです」

( ^ω^)「これでよく理解できたお?こんの馬鹿弟子が」

(*'A`) 「俺はオノレの弟子になった覚えは無い。それにしてもお恥ずかしい、全く気がつきませんでした」

そうだ、よく考えたらサスガなんてそうそうある名前じゃない。
普通気が付くだろう。
俺は三人のクスクス笑いを聞きながら、顔から火が出る思いでした。

簡単にお二人を紹介する事にしましょう。
儀仔さんは現在東京の四葉製薬工業に勤めていて、年末年始の休暇が取れず今頃になって帰省。
なんでも村の閉鎖的な雰囲気があまり好きではなく、東京に出たのもそのためだそうです。

12 名前:愛のVIP戦士[] 投稿日:2007/02/17(土) 20:45:45.83 ID:hBMEFy4d0

しぃさんはいわゆる専業主婦、儀仔さんとの出会いは大学時代だとか。
俺から見てもなかなかの美人さんです。

(*^ω^)「おっお? どうしたお? しぃさんのことでも考えてたお?」

(;'A`) 「うわっ!? 教授…、いきなり突っ込まないで下さい、また事故りたいんですか?」

(*^ω^)「流石にそれは御免だから大人しくしてるお」

('A`) 「全く…」

話が逸れましたが俺たちはあの後お互いの車に戻り、ご夫婦の先導で嵯守峨村へ向かっています。
これでまた妙な道に突っ込んだりして無駄な時間を食うのを防げるって訳で。
彼らにここで会えたのは幸運でした。

13 名前:愛のVIP戦士[] 投稿日:2007/02/17(土) 20:46:09.63 ID:hBMEFy4d0

本音を言えば狩唐辺りで会えれば尚良かったんですが。

(;'A`) (でも、修理代どの位掛かるのか考えると恐ろしいな)

そして10分位経った頃、山道を抜け嵯守峨村の集落が見えてきました。

村の中央にメインストリートと思しき道路が一本通り、
其処から幾つもの道路が枝分かれ、もう行った先には幾つかの建物が見えます。
その手前両脇には耕作地らしき開けた場所が広がっている様子。

ただ、さっきから益々勢いを増した吹雪のせいでそれ以上詳しい事はわかりませんでした。

14 名前:愛のVIP戦士[] 投稿日:2007/02/17(土) 20:46:30.61 ID:hBMEFy4d0

(*^ω^)「いやー、やっと村に着いたお。今日の夕飯なんだろな〜ぁ♪」

(;'A`) 「いや、あんたいきなりそりゃないでしょ。常識的に考えて…」

( ^ω^)「おっお! もちろん、当主さんから情報収集するのも目的だお。
       ……もしかして、嵯守峨邸はあの大きなお屋敷じゃないかお?」

('A`) 「え? どれですか?」

(;^ω^)「どこを見てるんだお…。普通運転席に乗り出して、
       あれと言われたら前を見るだろお。常識的に考えて…」

15 名前:愛のVIP戦士[] 投稿日:2007/02/17(土) 20:46:52.65 ID:hBMEFy4d0

言い忘れました、実はこの教授。
いい年こいて結構負けず嫌いだったりします。

(#^ω^)「年齢は関係ないお」

('A`) 「へいへい、ってか人の心を読まないで下さい」

それじゃ改めて、とばかりに教授の視線の先を見ると……。

('A`) 「凄く…大きいですね」

またご立派なお屋敷が目の前に。
敷地の大きさなんか俺のような一般人には想像出来ませんでした。
先導の車に付いて正面門を抜けると、凍り付いているとは言えど庭園なんかもあったりして。

16 名前:愛のVIP戦士[] 投稿日:2007/02/17(土) 20:47:17.71 ID:hBMEFy4d0

建物は母屋と幾つかの建物に分かれていて、そのうちの一つに渡り廊下がありました。
母屋はなんとも歴史を感じさせる佇まい。
建築様式は豪雪地帯に見られる合掌造りと呼ばれるアレが最も近いです。

そのまま暫く付いて行くとガレージが。
俺達は一先ずその手前の空き地に車を止めました。

(*^ω^)「あー、これで漸く腰痛から開放されるお」

(;'A`) 「こっちもぶっ通し運転はキツかったですよ。
     あー、それと機材類はどうしますか? 一応屋敷内への搬送許可は取ってますが」

17 名前:愛のVIP戦士[] 投稿日:2007/02/17(土) 20:47:43.07 ID:hBMEFy4d0

( ^ω^)「今日は車の中に置きっ放しにしておくお」

('A`) 「そうですね、そうしましょう。
    つか流石にこの天気で搬送作業は、勘弁して欲しいですからね」

( ,,゚Д゚)「お二人とも、さぁ中に入りましょう。この雪は慣れた私たちにしても結構な豪雪です」

( ^ω^)「わかりましたお。助手君、さっさと入るお」

荷物を運び終えたのか、儀仔さんがこちらに近づいてきて屋敷に入るように促しました。
なんせその声も溶けていってしまいそうな雪、俺たちはこれ幸いと最低限着替えなど持ってそそくさ引っ込む事に。

18 名前:愛のVIP戦士[] 投稿日:2007/02/17(土) 20:48:03.87 ID:hBMEFy4d0

儀仔さんたちの部屋は離れにあるらしく玄関で別れた俺たちは、
使用人の方に案内されて十二畳ほどの和室へと案内されました。

川 ゚ -゚)「こちらです。まもなくお夕飯ですのでその時はまたお呼びに窺います。
     他に何かあれば遠慮無くお申しつけ下さい」

('A`) 「わかりました。ありがとうございます」

川 ゚ -゚)「それでは失礼します」

('A`) 「いやぁ、内部も凄いですね…」

19 名前:愛のVIP戦士[] 投稿日:2007/02/17(土) 20:48:16.85 ID:1DJcxy3H0
支援

20 名前:愛のVIP戦士[] 投稿日:2007/02/17(土) 20:48:29.19 ID:hBMEFy4d0

よくよく見れば置いてある調度品も見た目からして古く、高級そうなものばかりです。

儀仔さんから聞いた話によると嵯守峨家の資産は、元からの財産や
新潟県に展開するビジネスなどを総合すれば中々のものだとか。

二人してきょろきょろと周りを見渡していると
さっき入ってきた襖が2度ほど叩かれ、さっきと同じ人の声がしました。

川 ゚ -゚)「お食事の用意が出来ました。座敷の方までお越しください」

21 名前:愛のVIP戦士[] 投稿日:2007/02/17(土) 20:48:49.67 ID:hBMEFy4d0

( ^ω^)「わかりましたお!」

(*^ω^)「さぁ、ごっはん〜ごっはん〜♪」

(;'A`) 「わかりました、だからもう少し落ち着いてください」

妙に元気な教授と俺は、使用人さんに案内されて途中に見えた座敷と思われる大きな部屋へ。
既に皆さん揃っていた様で、暫し談笑した後に俺達はなるべく多くの話を聞くべく本題を持ち出しました。

第一章 終わり



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