96 名前:( ^ω^)ブーンはカラフルな騎士のようです[] 投稿日:2007/02/04(日) 01:05:38.11 ID:J2WPSIQd0
しっかりと大地の感触を確かめつつ、ブーンは長槍を奮っていた。
すぐ傍らに愛馬を待機させ、自分は待ち人の上官二人が到着するまでの
僅かな時間をも訓練に当てていた。
( ^ω^)「フンッ! ホァッ!!」
独特の掛け声と同時に、空気の引き裂かれる音があたりに響く。
それほどブーンの槍捌きは素速く、軽やかだった。
本来数十斤もあるこの長槍を、まるで玩具のように軽々と振り回す。
形状はランスというより、矛や戟に近いものだった。
ブーンは、この武器が好きだった。
銃と拳と剣。この三つから選べと言われたが、ブーンは槍を選んだのだ。
理由はたった一つ。憧れの人が、この武器を使っていたから……。
ブーンのいる地域は周囲をぐるりと山に囲まれた、山中に忽然と現れた平地である。
高山植物が、草原の中にちらほらと見られ、ブーンは槍術訓練を小休止すると
ゆっくり、花の前に腰を下ろした。
( ^ω^)「今日は隊長のクーさんが用事があるんだってお。何だろうね」
花に話しかけるようにして、ブーンは深呼吸をした。
山の麓の市街地では味わえない、完全な自然。清々しい空気。
97 名前:( ^ω^)ブーンはカラフルな騎士のようです[] 投稿日:2007/02/04(日) 01:05:56.91 ID:J2WPSIQd0
( ^ω^)「この自然を護る為なら、戦えるお」
今ブーンが所属するVIP国は、北方の山脈を越えた平地に
拠点を構える工業大国ラウンジ帝国の毒牙に蝕まれ始めている。
農村国家であるVIPは、主要な軍隊を持たない。
( ^ω^)「だから、ぼく達がVIPを、この国の自然を護る……それが、」
川 ゚ ー゚)「わたし達、傭兵部隊の役目だからな」
うわおおッ!? とブーンは奇声を上げて後ろを振り向いた。
(;^ω^)「な、クーさんじゃないですかお。驚かさないでくださいお」
川 ゚ ー゚)「わたしは驚かせてなどいないさ。でも、わたしはキミの決意に驚いたよ」
(*^ω^)「ありがとうございますお」
川 ゚ -゚)「だが、それだけじゃ駄目だ」
(;^ω^)「え?」
クーは自分が乗ってきた白馬から降り、ゆっくりとブーンの元へ歩みを進めた。
身に纏っている甲冑が、がっちゃがっちゃと音を立てた。
ブーンの憧れの人は、とても勇ましかった。
99 名前:( ^ω^)ブーンはカラフルな騎士のようです[] 投稿日:2007/02/04(日) 01:06:15.13 ID:J2WPSIQd0
川 ゚ -゚)「決意だけでは駄目なんだ。決意は力が伴って初めて効力を発揮する」
ブーンは何も言わず、クーの背中を見詰めた。
クーはブーンの二メートルほど前に直立し、北方の霊山を遠望していた。
あの山の向こうに、ラウンジがある。
クーさんの生まれ故郷のニュー速も、ラウンジの貪欲さに併呑されている。
(;^ω^)「あの……クー隊長」
自分を呼び出した理由を伺おうとして、ブーンはおずおずと声を発した。
頃合いを見計らって、クーがくるりと振り返る。
風に靡く長髪。その笑顔は素敵だった。
川 ゚ ー゚)「今日はキミをテストしに来た」
そこまで言われて、ブーンは初めてクーが手に槍を持っていること、
そしてその槍が、クーを伝説の猛将たらしめている槍であることに気が付いた。
『三分の魔女、クー』。それが彼女に付けられた忌まわしい二つ名だった。
クーの率いる騎馬隊は、恐ろしいまでに精強だった。
神出鬼没の騎卒、獅子奮迅の奮戦、勇猛果敢な勇者達。
そしてそんな鬼の如き部隊を率いる彼女は、いつしか魔女と呼ばれるようになった。
101 名前:( ^ω^)ブーンはカラフルな騎士のようです[] 投稿日:2007/02/04(日) 01:06:30.56 ID:J2WPSIQd0
川 ゚ ー゚)「恐いのか? ブーン」
恐くないと言えば嘘になる。
この人は手など決して抜かない。
殺すつもりとまでは行かなくても、自分をぶちのめしに来るだろう。
(;^ω^)「こ、恐くないですお」
虚勢を張れ。どれだけ恐ろしくても虚勢を張るんだ。
クーに教えられたことを、クーに対して実践している。
そう、それでいい、とクーが呟いたことにブーンは気付かなかった。
( ´・ω・`)「隊長、真剣での勝負は危険です。これを、お使いください」
副官であるショボン騎卒長が、竹で出来た薙刀状の槍を差し出した。
しかし、クーは笑顔でショボンの差し出しを断っていた。
ブーンは生唾をごくりと飲み込んだ。
目の前の人は、本気だ。
クーが自分を見て、にやりと笑ったのがはっきりと解った。
音もなく、静かに、槍を構えて近づいてくる。
( ´・ω・`)「決闘時間は、……三分ッ!!」
そして自分とクーとの距離が僅か五メートルほどになったとき。
102 名前:( ^ω^)ブーンはカラフルな騎士のようです[] 投稿日:2007/02/04(日) 01:06:52.03 ID:J2WPSIQd0
川 ゚ ー゚)「人生最高の三分間にしようッ!!」
クーが大喝一千、足の裏で大地を蹴り爆発的勢いで
ブーンへと急接近した。
(;^ω^)「くッ!」
ブーンはクーの戟の先を得物で受け止めた。
金属と金属の弾けるギィィンという音が鼓膜に響く。
クーは攻撃の第一派を終えるとすぐにブーンとの間合いを取った。
川 ゚ ー゚)「第一派の防御としては、まあまあかな」
クーは重い甲冑を身につけている。
それなのに動きは素速かった。
川 ゚ ー゚)「ああ、この甲冑か。大丈夫、キミの攻撃が当たった時点でわたしの負けだから」
クーはぐるぐると大戟を頭上で舞わし、ブーンを威嚇した。
それだけで、空気が振動し山々が胎動しているような威圧感がした。
自分はこの人に勝てるのだろうか。
一瞬、そんな弱気が心を覆う。
103 名前:( ^ω^)ブーンはカラフルな騎士のようです[] 投稿日:2007/02/04(日) 01:07:04.73 ID:J2WPSIQd0
( ^ω^)「勝てるかな、じゃない……」
ブーンはゆっくりと、腰に槍を構える。
それはブーンが自力で編み出した、完全に我流の、構え。
川 ゚ ー゚)「ほう、独創的な構えだ」
(#^ω^)「勝つんだおッ!!」
ブーンは全力でクーに突進する。
脚で大地を蹴り、一気にクーに詰め寄る。
だがクーには当たらない。当然予期していたとでも言うように
ひょいとその身を横へと逸らした。
川 ゚ ー゚)「惜しむらくはその荒削りな技。基本的な槍術技能の未熟さ。
ただキミの槍術は非常に、『カラフル』だ」
(#^ω^)「カラフルッ!?」
カラフルとは、色彩豊かという意味ではなかったか。
ブーンは咄嗟に頭の中にある僅かな外語辞書を引き出した。
しかし当然、薄っぺらな辞書にはその意味しか掲載されていない。
(#^ω^)「どういう意味ですかお!?」
104 名前:( ^ω^)ブーンはカラフルな騎士のようです[] 投稿日:2007/02/04(日) 01:07:21.53 ID:J2WPSIQd0
川 ゚ ー゚)「知りたいか?」
ブーンは槍を突き出し続けている。
だが一度も当たらない。
まるで予知能力でもあるのか、とブーンに思わせるほど
クーの身のこなしは完璧で鮮やかだった。ブーンの刺突だけが、虚しく空を突く。
川 ゚ ー゚)「知りたければ、このわたしを倒してみろ!!」
ブーンが最後の一撃を、繰り出す。
クーはせせら笑いながら、ブーンの渾身の一撃をかわした。
カウンターでケリを付ける為、クーは戟を振り上げた。
川 ゚ ー゚)「トドメだ!」
(*^ω^)「かかったり、隊長ッ!!」
川 ;゚ -゚)「なッ!?」
次の瞬間、クーの躰がまるで重力が突然強化されたかのように
地面に向かって倒れ込んだ。クーの脚には、糸が巻き付けられていた。
川 ゚ ー゚)「罠……。そうか、がむしゃらに攻撃をする振りをして……、この策士め!」
( ^ω^)「隊長が魔女なら、ぼくは鬼謀の策士ですおッ!!」
106 名前:( ^ω^)ブーンはカラフルな騎士のようです[] 投稿日:2007/02/04(日) 01:07:37.18 ID:J2WPSIQd0
と、次の瞬間、ショボン騎卒長のホイッスルが高らかに鳴らされた。
( ´・ω・`)「ただ今を以て三分と致します。引き分けになります!」
ブーンは、え、と間の抜けた表情をしたままその場で直立し、
クーは危なかったな、と呟きながら臀部に付いた汚れを払った。
(;^ω^)「ひ、引き分けですかお」
川 ゚ ー゚)「なあに、このわたしから引き分けをもぎ取ったんだ。上出来さ」
クーはひょいっと、馬に跨り、去りゆく間際ブーンに言った。
川 ゚ ー゚)「カラフルってのは……、そうだな、下品って意味がふさわしいかもな」
(;^ω^)「げ、下品?」
クーはからからと大笑しながら、ブーンの元に近づいた。
川 ゚ ー゚)「さあ、帰ろう。キミも今日から正式な、素直騎士団の一員だ」
107 名前:( ^ω^)ブーンはカラフルな騎士のようです[] 投稿日:2007/02/04(日) 01:07:51.68 ID:J2WPSIQd0
('A`;)「注進! 注進ッ!!」
( `・ω・´)「何事だッ!」
次の瞬間、ブーンは北の方角を振り向いた。
一人の騎卒が騎馬を駆り疾走してくる。
馬も男も、長駆してきたらしく随分と息が荒い。
北方から伝わる、注進すべき事例は一つを除いて他にはない。
川 ゚ -゚)「ラウンジか」
('A`)「はい、ラウンジの先遣隊が境界線を侵犯しています!」
すぐに行こう。クーがそういうと、若い騎兵校尉は馬首を返すと
一度大仰に拱手するとそのまま北方へと走り去っていった。
( ´・ω・`)「どうやら、三分の魔女がいない間にケリを付けたがっているようですね」
川 ゚ ー゚)「そうだね、でも大丈夫。いまのこっちには、新しく……」
クーは、ぼんっ、とブーンの背中を叩いた。
川 ゚ ー゚)「鬼謀の策士がいるからなッ!!」
108 名前:( ^ω^)ブーンはカラフルな騎士のようです[] 投稿日:2007/02/04(日) 01:08:05.58 ID:J2WPSIQd0
ブーン、クー、そしてショボンの三騎が山道を疾駆している。
この山道を抜ければ、ラウンジと素直騎士団が抗戦している平原に出るはずだ。
馬蹄の音だけが響いている。
( ´・ω・`)「内藤くん。カラフルの意味だけどね」
ブーンは、顔をゆっくりと併走するショボンの方へと向けた。
( ´・ω・`)「カラフルには、確かに下品という意味もある。
でも、生き生きとしているという意味もあるんだ。
おそらく隊長は、そっちをキミに伝えたかったんだろう。照れくさかったんだろうね」
隊長は、キミを認めている。心からね。
と言い残しショボンは少し先を行く、クーの後を追うため加速した。
ブーンは独り、山道を疾走している。
ぱっと、視界が開け、目の前を覆う粉塵が目に入った。
戦闘だ。平原で戦闘が繰り広げられている。
クーはブーンを見た。ブーンもクーを見詰め返した。
二人の手には、愛用の得物。
クーは、ブーンに並列するように指示を出し、粉塵の中心を笑顔で指差し、叫んだ。
川 ゚ ー゚)「人生最高の三分間にしようッ!! 我が友よ!」
掛けだした三人の足下には、一輪の高山植物が咲いていた。
のち、独創的な槍術の男が率いる『カラフル騎士団』が歴史の表舞台に現れるが、それはまた別の話。
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