-ヤクザが惚れる蝉時雨-
971 名前:-ヤクザが惚れる蝉時雨- [] 投稿日:2007/01/29(月) 03:37:04.23 ID:unRIF6fm0
鏡のように磨き上げられた刃に鋭い眼光が反射する。
/ ,' 3「……」
右手を返し、くるりと長ドスを回転させる。
/ ,' 3「ふむ」
ひとつ息をつき手にしたそれを、
トスッ
――軽く畳に突き立てる。
荒巻スカルチノフは自らの得物の手入れを九本目まで終わらせた。
/ ,' 3「ふふ…」
――他勢力との抗争に敗れ、もはや風前の灯となった荒巻組の組長である彼は、
/ ,' 3「…ふふはははははははははァーー!」
自らの屋敷の一室で死に装束を身に纏い、実に愉しそうな哄笑を上げていた。
怨念の篭った眼差しとその衣装とが相まって、周囲に突き立てられた九本の長ドスはさながら卒塔婆のように見えた。
――彼の屋敷は完全に包囲され、逃げる道は残っていなかった。
――それでも彼は笑う。愉しそうに。楽しそうに。
972 名前:-ヤクザが惚れる蝉時雨- [] 投稿日:2007/01/29(月) 03:37:24.79 ID:unRIF6fm0
――ダンッ!!
唐突にふすまが開けられる。そして――
( ,,゚Д゚)「ここかァ!?荒巻ィー!!」
闖入してくる大量の返り血を浴びた男。
/ ,' 3「……」
ピタリと哄笑を止め、男を一睨みする荒巻。
気の弱い人間であれば失禁してもおかしくないほどの眼光にしかしその男は、
( ,,゚Д゚)「命ァ、獲ったるァァーー!!!!」
微塵も怯むことなく血糊のべっとりついたドスを腰だめに構え突進してくる。
/ ,' 3「ふん」
つまらなそうに吐き捨てながら、むしろゆったりとした動作で傍らの卒塔婆の一本に手を伸ばし――
/ ,' 3「――シィッ!!」
――気合一閃。男の両腕は宙を舞い、掴んだままのドスと共に天井に突き刺さる。
(;,,゚Д゚)「――――ッア」
――男は悲鳴を上げる暇もなく次の瞬間には首をはねられた。
973 名前:-ヤクザが惚れる蝉時雨- [] 投稿日:2007/01/29(月) 03:37:44.69 ID:unRIF6fm0
静寂が訪れる。――いや今まで聞こえていなかった音が聞こえ出す。
ジーーーーーーーーーーーージーーーーーーーーーーー
蝉時雨。
/ ,' 3「ほぅ…」
赤と白とが織り成す凄惨な出で立ちで、荒巻は感嘆の息を漏らした。
もともと彼は風流を愛する方ではない。
しかし、このときのそれは男への葬送の歌のようにも思え妙に聞き惚れるものがあった。
ーーーーーーーーージ……
――不意にそれが止まる。そして、
「どこじゃあ!荒巻ィー!!」
「出てこんかァー!」
代わりに聞こえる、罵声。怒声。
/ ,' 3「…無粋な」
('A`)「…! 見つけたぞ荒まk…!?」
罵声の主の一人は部屋に入ると同時、荒巻の投擲した長ドスに喉を貫かれ絶命した。
974 名前:-ヤクザが惚れる蝉時雨- [] 投稿日:2007/01/29(月) 03:37:59.75 ID:unRIF6fm0
_
( ゚∀゚)「毒の字ィィーー!!」
罵声の主のもう一人は、仲間の唐突な死に露骨に動揺し――
ドシュッ
_
(; ゚∀゚)「……あ?」
荒巻の接近に全く気付かぬまま心臓を一突きされた。
/ ,' 3「……クク」
――喉から笑みを洩らす荒巻。その笑みは、
/ ,' 3「クカハハハハハハハハハハァー―!!!」
――すぐに腹の底からの大笑へと変わっていった。
「!」
「笑い声が聞こえたぞー!」
「この、癇に障る声は!」
「荒巻!そっちかぁー!?」
/ ,' 3「ハァ―――――ハッハハハハァァ―――!!!」
――荒巻の笑声。それに群がり集まる男たち。
――仁義も何もない。ただ、殺しあうだけの宴が幕を開ける。
975 名前:-ヤクザが惚れる蝉時雨- [] 投稿日:2007/01/29(月) 03:38:16.47 ID:unRIF6fm0
ザシュッ
――六人目。これで、今部屋にいるのは荒巻とあと一人。
/ ,' 3「フゥー!フゥー!」
肩で息をしながらも爛々と目を光らせる荒巻に残った一人は明らかに怯んでいた。
( ;´∀`)「な、何だよテメェ!?なんでそんな強えんだよ!?」
意味の無いその問いに荒巻は答えず、
/ ,' 3「……どうした。来るのか?来んのか?」
――四本目の長ドスに手をかけながらそう言った。
( ;´∀`)「!?」
ビクッ! と身を竦ませながらも男は震える手でドスを握る。
――流血と返り血で全身を真っ赤に染め上げたこの男に勝てる気は全くしなかったが、逃げれば兄貴に殺される。
( ;´∀`)「う、うわああああああああああ!!!!」
まっすぐに突っ込む。破れかぶれだ。
/ ,' 3「――スッ!!」
荒巻は無造作に長ドスを前に出し男の心臓をついた。
976 名前:-ヤクザが惚れる蝉時雨- [] 投稿日:2007/01/29(月) 03:39:20.37 ID:unRIF6fm0
――朱い雫が地に落ちる。
/ ,' 3「……」
――荒巻にとって予想外であったのは男の突進の勢いである。
/ ,' 3「――グブッ!」
――荒巻の長ドスに貫かれてなおその勢いは止まらなかった。
/ ,' 3「……」
再び静寂。――蝉時雨。
屍と化した男たちに目をやりながら、腹からドスの柄を生やし、その場に胡座をかく荒巻は、
……ミ゙―――――ンミ゙ンミ゙ンミ゙―――――――ン……
――その葬送の歌に聞き惚れながら、
/ ,' 3(……こんな死に方も悪かぁ無いか)
――意識を閉じた。
―終―
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